ヴィレッジ
監督・脚本/藤井 道人(ふじい みちひと)
新聞記者(19)
宇宙でいちばんあかるい屋根(20)
ヤクザと家族 The Family(21)
余命10年(2
最後まで行く(5月19日公開予定)
出演/
片山優/横浜流星
中井美咲/黒木華
筧/奥平 大兼(おくだいら だいけん)
中井恵一/作間 龍斗(さくま りゅうと)
丸岡/杉本哲太
片山君枝/西田尚美
大橋ふみ/木野花
大橋光吉(おおはしこうきち)/中村獅童
大橋修作/古田新太
大橋透/一ノ瀬ワタル
昨年亡くなった
プロデューサー河村 光庸(かわむら みつのぶ)の遺作とも言える作品で、
藤井道人監督の長編映画オリジナル脚本としては2作目
新聞記者(19)
ヤクザと家族 The Family(21)でもタッグを組んだ2人の作品ということでも、かなり重厚な作品になることは想像できていた。
制作配給のスターサンズといえば
松坂桃李、古田新太らの素晴らしい演技が見える「空白(21)」
や
さっきの
「ヤクザと家族 The Family(21)」
といった社会に鋭く切り込む作品や
「新聞記者(19)」
「パンケーキを毒見する(21)」
といったリベラル視点での映画も多いので苦手とする人も少なくない
そんなスターサンズと藤井道人。そして河村光庸の作ったヴィレッジは、想像以上のヘビィな内容になっている。
霞門村(かもんむら)は薪能(たきぎのう)とおう伝統文化でもある能の儀式が行われる自然が豊かな村。
しかし村の経済はゴミの最終処分場に頼り切った状態で、さらにそのゴミの最終処分場も補助金があってこそというギリギリの経済状況の村。
そこに暮らす片山優(横浜流星)は、親の起こした罪により世間から冷たい目で見られ、彼自身もゴミ処分場内での暴力を伴ったイジメに合う毎日。
母親はパチンコ依存症でまともな生活もできていない。
そんな母親を見捨てることもできず、村長の息子と結託した暴力団に言われるがままに不法投棄の現場作業員として働く、未来に希望を持てないまま暮らし続けている。
そんな村に、幼いころに一緒に薪能を習っていた美咲(黒木華)が東京から帰ってくる。
彼女が返ってくることで優にも変化が訪れるのだが……
物語は人生の栄枯盛衰でもあり、
能で演じられる「邯鄲(かんたん)」の物語をなぞる形で進む
そのため、
明確には分かれていないが「章仕立て」とも言っていいほど「優(横浜流星)」の立ち位置が変化し、彼自身の考え方や身の振り方はもちろん姿勢や目の輝きすらも変化する。
この変化の演技を見事にやりきっているのが何と言っても印象的
冒頭からの希望を持てない青年は常に猫背で誰かに声をかけられないようにビクビクしながら生きているが、途中から希望を持つときには目に光が宿り、自信が見えるくらいになる。
そこからさらに変化するがその変化ごとに、目線の高さ、表情の豊かさ、顔の筋肉のこわばり感(メイクも含む)、目に当たる光(照明とカメラマンのうまさ)、感情の吐露の仕方が時間軸よって明確に違い、それにともって流星くんの感情表現が劇的に違っている
これは演出も含めて藤井監督の計算に見事に答えた、横浜流星の役者としての素晴らしさといえる。
撮影の順番は不明だが「流浪の月」での感情のままに激昂するDV男役の経験が見事に活きているのかもしれない
古田新太は圧巻の演技
村を治める尊重としての光と闇。表と裏のいやらしさをこれでもか!とばかりに魅せてくれる。
「空白」のときでもそうだが、タバコを吸いながらふてぶてしい会話の演技ができる彼の存在はとてつもない緊張感が伝わってくる物がある
黒木華のヒロインとしてのポジションは王道的
それ故にこの映画の唯一の清らかな存在として輝いている。
彼女の優しさがあるからこそ、希望の光を見出す立場の演技は素晴らしかった
あの優しさの雰囲気はすごい、女性であり恋人であり、または母性に満ちた笑顔や空気感を出す演技は素晴らしいの一言
物語のキーとなり、出演シーンは少ないものの存在感を出していたのが
中井恵一/作間 龍斗(さくま りゅうと)
ヒロイン美咲の弟であり、彼の存在がいろいろな意味でキーとなっている
その恵一は、内気で人とうまく喋ることができない…が人一倍正義感が強い…という難しい役どころを作間龍斗は演じきっている。
ジャニーズJr.の名前では作間龍斗として、一人の俳優として新たな成長が見えるのではないだろうか?
中村獅童の薪能の所作は美しく、さすが歌舞伎役者
筧/奥平 大兼(おくだいら だいけん)も、巻き込まれ型の青年を自然に演じているなどなど、出ている俳優の演技は誰もが素晴らしく、見入ってしまうほど
ヴィレッジというタイトルが一つの小さな村を差すのではなく、
日本全体に多くはびこっている利権におけるからくりや闇の部分を提示しているようにも感じる。
また、能の仮面をお祭りに参列する全員がつけるといった部分は、日本全体における、「右向け右」に対して。もっと明確に言うと「マスクをお願いしたら、多くの人がマスクをしている社会」の皮肉的な演出かもしれないし、それはスターサンズらしい演出として組み込んだところかもしれない。
ごみ処理施設の建設などはどの市町村でも問題になること
さらに地権者や村の人間との関係性などは、日本全国で様々な形で起きている事象。
また、ごみ処理施設近辺における水質汚染問題の有無も解消されるものもあれば浮かんでは消えるものもある。そういった社会全体の「臭いものに蓋をする」雰囲気をこの映画では比喩したとも言える。
それは古田新太演じる村長のセリフでも簡素かつ明確に語られる部分があるし、それが今の日本で重くのしかかっている問題点でもある…と言っているようにも見える。
エンターテイメント性よりも社会派サスペンスというべき映画。
横浜流星のアップシーンが多いのは、彼の表情の変化を汲み取って感じてほしいという監督からのメッセージとも言えるだろう。
だからこそ、大きなスクリーンで見てもらいたい映画といえる
余談だが、車のナンバーを徹底的に映らないように構図を調整している。これはナンバーによって年代を明確にしないためではないだろうか?と想像してしまう。
また、優の自家用車や廃棄処分のトラックなどは古臭さあふれる車をだしたりしているのに、出てくる小物。例えばスマートフォンは最近のもの使用しているなどによって、現実と虚構をうまく混ぜ込んでいるのも時代を明確に特定イメージしづらい演出かもしれない。
杉本哲太演じる丸岡の車だけがアウディの新車っぽいのだが車の形式までは識別できなかった…
いずれにしても、物語的には
社会的に虐げられてきた主人公の人生の栄枯盛衰の物語
ラストは明確な答えを出していないので、エンドロール後の1カットの解釈をどうとらえるかでこの映画の回答はずいぶんと変わってくると思う
そしてエンドロール後の1カットでの映像が、現状に留まって悲観するのではなく、なにかのための行動が大切であることを教えてくれる。
最後に少しネタバレになりかねない部分もあるが、不満…というか
気になる所は数か所ある
今作は先程の通り、
役者の演技が素晴らしかった故に、物語の進捗での粗さやシナリオ展開における粗さが気になる部分がいくつかあったりするし、説明不足な部分が少なからず出てきてしまっている。
例えば、
前半に出てきた優(横浜流星)が気になってしまう、職場のとあるポイントはその後全く音沙汰がない
とか
薪能とごみ処理施設の村が、急遽観光場所として成り立った経緯などは完全にすっ飛ばしているので、
「一体何が起きたのか?」
がわからないまま進んでしまう所などがあったりする
そういった急展開の部分を素直に受け入れないと「???」となってしまう。
例えば
一気に観光客が集まってくる理由づけとして、
PR展開がうまくいき、SDGsの成功村としてネットで話題になり、世界から注目を集める村!
といったPC画面のニュース記事掲載が1カットでもあれば良かったかもしれない
また優の生活環境の変化とともに、村の評判の変化を外堀から丁寧に描いても良かったかもしれないが、それをすると145分くらいは必要になっただろう。
2時間にまとめたからこそ、オミット(省略)されたエピソードや演出が数多くあることを想像してしまう映画でもある。
いずれにしても、横浜流星演じる優が最後に取る選択というものが、
彼自身の人生の贖罪なのか、
希望をつかむための行動なのか。
それとも次世代への希望のための行動なのか
大切なものを守るための自己犠牲なのか
それぞれの想像が膨らみ、明確な回答は描かれないまま。優(横浜流星)のアップの表情をラストにエンドロールに向かう。
その対局に位置するような、エンドロール後のとある登場人物の表情が対極的で対照的なので、お見逃しが無いように
1 comment
びっくりするくらい同じ感想でした!気になる部分はホントにその通りで、もう少し詳細が描かれてればなあと思いました、演者さんが素晴らしかっただけに😂そしてそれを画けば120分に収まらないであろうという点も😂
よい解説でした。有難うございます。