渇水
作家・河林 満(かわばやし みつる)短編「渇水」を原作とし、
「凶悪」「孤狼の血」で知られる白石和彌監督が初プロデュースだが白石監督らしい直接的な表現はかなり抑えめ。
監督/高橋正弥
出演/生田斗真 磯村勇斗 門脇麦
山﨑七海 柚穂 尾野真千子
真夏の暑さは酷い毎日。舞台となる前橋市は日照りで取水制限が出されている。そのため公共プールも止まっている。
水道局員の岩切(生田斗真)は水道料金滞納者を周り、集金をするかかり。滞納者の対応によっては停水(水を止めること)の判断もする、社会的にも嫌われる立場の仕事を黙々とこなしている。
今日、訪ねた相手は何度も通告をしているが対応してくれないため停水を決定する。
次に訪ねたのはシングルマザーの家で、何度も訪ねているがやはり滞納金を支払う気が内容に見えた。
岩切は停水を決定し同僚の木田(磯村勇斗)に停水を指示するが、ちょうどその時2人の娘が帰ってくる。姉妹の様子を見て岩切はその日の停水を思いとどまるのだった…。
生田斗真の演技の素晴らしさは過去No1だろう。これは間違いない。
小説原作の「僕等がいた」の2作辺りから続いた、現代ドラマ的演技や「土竜の唄シリーズ」にある、ギャグテイストの演技から「予告犯(15)」「グラスホッパー(15)」「友罪(18)」のような社会になにかを訴える役もよくできていたが、今回の
人生に対して活力がなく、心の乾きを持つ主人公
のプライベートは惰性で生きているような雰囲気の演技は素晴らしい。
仕事にも慣れてきた。でもプライベートはダメダメ。
そのどこにでもいそうな雰囲気の役柄を見事に演じきっている。
そして水道局員という公務員という立場ゆえの「淡々と業務を遂行する立場である人間の悲哀」も感じさせる素晴らしい演技。
これから見る人は、彼の仕事が終わって、家に帰って 何をしているのか?をチェックしてみてほしい
彼自身が渇水しているものが見えてきます。
そして磯村勇斗のバディ的ポジション
まだまだ水道局員として成長しきれていないからこそ出てくる、ポロッとした本音が観る側の気持ちを表すような立場の雰囲気の出しかたが上手い。
ビリーバーズ(22)
PLAN75(22)
異動辞令は音楽隊!(22)
と昨年は心地よい役どころで見せる演技を見せてくれた彼だが、そろそろアレが主演の王道映画などでも作ってもいいのではないだろうか?そんなことも感じさせてくれる役柄だった。
なんといっても外せないのが、姉妹役の
山﨑七海(やまざき ななみ)柚穂の2人
柚穂のあどけない、母親の言う事と姉の言うことを素直に受け取り信じる妹役はピュアさ満点で、映画の途中で妹の久美子の素直さに涙が溢れそうになるほどだった
そして姉の恵子役の山崎七海。
天才子役と言っていいだろう。
本当はまだまだ子どもなのに大人として、姉として生活の中止に立たなければならない立場の役どころ素晴らしい演技で見せてくれていた。
この映画は社会派の一面を坦々を見せつけている映画でもある。
公共サービスとはなにか?
ライフラインを止めること難しさ
ネグレクト
低所得者の生活サービスの維持
ドロップ・アウトした立場の人の就職にたいする難しさ
親になることと親であることの難しさ
そういったものに対して、社会が、法が、制度が差し伸べることができない現実を描いた作品でもある。
せめて手の届く範囲の人だけでもなにかできないか?
と動くところからの展開は「護られなかった者たちへ」を思い起こさせるところはある。
この作品。原作はなんとも言えない、ラストであったが、映画の際にいい形で改変されている。
それが結果的にいいか悪いか?ということだけで考えると社会へ大きなくさびを打ち込むには物足りない。
それは文字情報だけとはいえ原作が持つ、衝撃的なラストと全く違うベクトルで結末を迎えているからといえる。
原作小説の「渇水」は1990年に発行されており、当時の閉鎖感というか閉塞感を感じる社会への大きなクサビを打ち込むラストだった。
時代が変わった今。あの原作の終わり方を描いたとしたら様々な形で噴出するものがあったのかもしれない。
だからこそ…というのもあるかもしれないが、
この映画はどこか期待と希望を持てるラストにした…というのは、監督自身がまだまだ社会を、人を、人と人の絆。優しさ、思いやりといった日本人的優しさを信じたいからこその改変だと思われる。
ライフライン業務を民間化することの難しさを案に言っているような気もするこの映画。もうすでに亡くなっているが、原作者がもと公務員だからこその
「公共サービスをつづけることの難しさ」
を描いた社会派映画でもある1本
ぜひ 映画館でご覧下さい。